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生死分けるのはシートベルト 救急12年、現場が実証

衝突した車の中で、命を落とす人とかすり傷ですむ人と。福島県郡山市の太田西ノ内病院救命救急センターの篠原一彰所長(44)は数々の交通事故現場へ急行し、そんな落差を見続けてきた。「運命を分けたのは、シートベルト」。12年にわたる事例の積み重ねを元に、その重要性を伝えている。
 「カローラでシートベルトをして通勤する人と、ベンツの後部座席でベルトをせず、平社員に送迎される社長。どっちが危ないでしょう」
 今月、福島県内であった交通安全イベントの講演。篠原さんの問いに、会場の多くは「ベンツ」で手を挙げた。「よくわかっていらっしゃる」
 「この会場にタクシーで来た人でシートベルトをした人は?」には、手が挙がらず。「私くらいのものですね」とやって笑いを誘い、「笑い事じゃないですよ」。
 スクリーンに事故車両が映し出された。
 時速15キロで木に衝突した乗用車。フロントガラスの助手席前にだけひびが広がる。ベルトをせず、衝突時にダッシュボードについた左腕が、飛び出してきたエアバッグにはね上げられ、フロントガラスとの間にはさまれて「皮一枚でつながっている」状態に。15時間の手術で治したという。「たった時速15キロで腕を失いかけた。運転席の人はかすり傷です」
 およそ30もの実例を次々と映していく。
 ミキサー車と正面衝突した乗用車で運転手がはさまれていた現場では、後部座席に頭から血を流した遺体がある一方で、助手席の人はけがもなく歩いて帰った。「運命を分けたのはシートベルト。そういう例をたくさん見てきた」
 同センター勤務となったのは95年。広域をカバーするため、緊急時はドクターカーで現場に駆けつける。「同じ事故車の中にいたのに、人によってあまりに結果が違う」のを目の当たりにする中、事故状況も含めた詳細なデータをとり続けた。乗用車で事故にあった患者だけでも約4200もの症例を積み重ねた(今年6月時点)。
 軽自動車と普通乗用車の違い、エアバッグの有無と重傷度の関係など様々に研究してきたが、結論はやはり「シートベルトが運命を左右する」。
 医学系の学会で発表するうちに自動車工学系の学会に呼ばれるように。大手自動車メーカーからも講演依頼が舞い込む。
 「難しいことを言ってるわけじゃない。どの車にもついているものを使うだけでいいんです」。聴衆にそう語りかける。
 ■「後部は安全」は誤解
 太田西ノ内病院救命救急センターが、交通事故で運ばれてきた患者で車の前席にいた人と後部座席にいた人の重傷度を比べたところ、後部の人の方が重いけがを負う傾向があることがわかった。「シートベルト着用率の低さが要因」と同センターは推測している。
 95年7月〜今年6月に搬送された患者4182例について比較した。けがの部位ごとに比較すると、顔面、胸部、腹部、手足では統計上の差は表れなかったが、頭と首の部分で重傷以上になった率は後部座席の11.1%に対し、前席は7.9%。シートベルトの着用率は、後部座席はわずか11.6%(前席は71.5%)だった。
 後部でベルトを着けていた場合、死亡率と集中治療室に入るほどの重傷率はともに1.4%。非着用だとそれぞれ3.8%、10%にはねあがる。
 データをまとめた篠原所長は「後部座席はしなくても安全というのは誤解だ」と指摘する。
 後部座席のシートベルト着用は道路交通法改正で来年6月までに義務化される。
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